1986年に中文大学への語学留学で１年間香港に滞在をした著者が、「香港に落とし前をつける」ために10年後、再び香港の地を踏み、香港返還をはさんでの２年間、自ら九龍の下町・深水[土歩]の古いアパートを借りて暮らします。日々の生活と取材活動を通じて、中文大学同窓生の香港エリートたちや市井の人々との交流を重ね、ときには摩擦も生じさせながら、彼らを通して香港を深く見つめていきます。
香港ファンでなくても十分堪能できますが、香港ファンなら極めて読み応えを感じることのできる一冊。読んだあとに深い充足感を得るヘビー級のノンフィクションです。香港好きの人間にとっては――特に学芸員Ｋのようにノーテンキな万年観光客にとっては――著者の香港に対する考えや理解の仕方の一部に反発を感じることもあるかもしれませんが、それだけに骨太な内容です。あくまで異邦人としてのスタンスをキープした視点だとしても、ここまで深く香港に入り込んだ著者に脱帽です。
すごい作品だと思っていたら、平成13年度の第32回大宅壮一ノンフィクション賞を見事受賞したのでした。やはりそれだけの作品だったのだと改めて納得しました。とにかくおすすめの一冊です。その後、版を重ねているようですので、それだけの反響はあったのだと思います。
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