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今はなき大映画館たち


凱聲戲院
 Empress Theatre

  【ほいしん・へいゆん】
  <エンプレス>
●エリア：九龍・旺角
●住所：水渠道10號
●座席数：1階 990席／2階 460席　計1450席
●変遷：1990年頃までに閉館、
　　　　　 始創中心(PIONEER CENTRE)ビルに変わる
●写真中の映画の看板
　 上映中：『魔笛追魂(PYRAMID OF FEAR)』
   　         監督＝バリー・レヴィンソン
　　　　　　　主演＝ニコラス・ロウ／アラン・コックス
※写真右の映画の看板は隣の麗聲戲院の看板


MTR太子駅近くにあった洋画上映館
隣の麗聲戲院と韻をふんだ館名で並び建つ
　九龍はMTR太子近く、麗聲戲院と同じブロックにあった映画館です。写真を見ると隣の麗聲戲院の上映作品の看板もかかっています。さらに館名からも推測されますが、この凱聲は麗聲と同じ経営の映画館だったと思います。外観は日本の映画館の雰囲気にも似たたたずまいです。

　この映画館には入ったことがありませんが、その外観と建物の大きさから、ここも座席数の多い大劇場だったのではないかと思っていました。で、そのとおり、新たに入手した資料によると総座席数は1450。これは当時の香港の映画館のなかでもトップクラスです。

　写真の撮影時にかかっていた看板はアメリカ映画『魔笛追魂』。原題は『PYRAMID OF FEAR』、日本公開題名は『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』です。製作総指揮がスピルバーグで、日本でもそれをウリにして宣伝されました。

　手元にある地図「香港街道地方指南」の1991年版（奥付によると91年11月発行）を見ますと、この映画館と隣の麗聲戲院はすでに載っていません。

　また、「地球の歩き方　香港」に掲載されている「旺角・大角咀」の地図を見ますと、「'90〜'91版」（同90年4月発行）までは麗聲・凱聲の文字と建物を示す赤いアミが載っていますが、「'91〜'92版」（同91年5月発行）では、消されています。消された跡が残っていますので誤って欠落したものではなく人為的に消されたものでしょう。

　したがって、これらの地図の情報が正しければ、この麗聲・凱聲の２館は、90年から91年の間に閉館されたことになります。

　90年頃といえば、香港映画の黄金期です。そんなさなかに隣の麗聲戲院とともに閉館にされてしまったのには、どんな事情があったのでしょうか。たしかにここは洋画上映館ですから香港映画の活況には直接関係はありません。しかし、望めば、上映できる香港映画はそれこそ掃いて捨てるほどあったはず。当時は小さな予算のプログラムピクチャーでも香港映画には客が押しかけていたのです。洋画上映館から切り替えて香港映画上映館にすることはできなかったのでしょうか。まあ、いまとなってはどうでもよいことですが。

　たとえば香港の一部のホテルもそうですが、香港の映画館も、経営にこだわりがないというか、執着がないというか、ダメと思えばすぐに閉鎖したりして、ある種の変わり身の早さには舌を巻きます。
　
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